イエネコとリビアヤマネコ

猫の起源をたどると、家猫（*Felis catus*）の進化の歴史や野生の近縁種に光が当たります。

家猫の直接の祖先：リビアヤマネコ

家猫の最も近い祖先は、リビアヤマネコ（*Felis lybica*、または*Felis silvestris lybica*）とされています。これは、アフリカ、中東、南西アジアに広く分布する小型の野生猫で、現在も自然界に生息しています。リビアヤマネコは、体長約40～50cm、体重2～7kg程度で、砂漠や草原、森林地帯に適応したしなやかな体と鋭い爪を持つハンターです。毛色は地域によって異なりますが、一般的には黄褐色や灰褐色に斑点や縞模様があり、現代のトラ猫（タビー）に似た外見が特徴です。

遺伝子研究によると、家猫とリビアヤマネコのDNAは非常に近く、約1万～1万2000年前に分岐が始まったと推定されています。この分岐は、人間が農耕を始め、穀物を貯蔵するようになった時期と一致します。リビアヤマネコが人間の集落に近づき、ネズミなどの害獣を捕食することで共生関係が築かれ、家畜化へと進んだのです。

より広範な祖先：ヤマネコ属

リビアヤマネコ自身も、さらに大きな猫科動物の系統に連なります。猫科（*Felidae*）は約4000万年前に進化を始め、小型猫のグループであるヤマネコ属（*Felis*）は約1200万年前に出現しました。この属には、リビアヤマネコのほか、ヨーロッパヤマネコ（*Felis silvestris*）、ジャングルキャット（*Felis chaus*）、スナネコ（*Felis margarita*）などが含まれますが、家猫に最も近いのはリビアヤマネコです。

一方で、家猫の遺伝子には、他のヤマネコ種とのわずかな交雑の痕跡も見られます。特に初期の家畜化の過程で、地域によってはヨーロッパヤマネコとの交配が起きた可能性が指摘されています。

進化の背景と特徴

猫科動物全体の祖先は、新生代第三紀（約6500万～2600万年前）に現れたミアキス（*Miacis*）という小型の肉食哺乳類に遡るとされています。ミアキスから分岐した原始的な猫科動物は、約2500万年前に現在の猫科の特徴である鋭い牙と引き込み可能な爪を持つようになりました。こうした特徴は、リビアヤマネコ、そして家猫にも受け継がれています。

リビアヤマネコが家猫の祖先として選ばれた理由は、その適応力と性格にあります。他の大型猫科動物（ライオンやトラなど）が群れで狩りをするのに対し、リビアヤマネコは単独で行動し、小型の獲物を効率的に捕らえる能力に優れていました。この独立性と柔軟性が、人間の生活環境に適応する鍵となったのです。

家畜化の過程での変化

リビアヤマネコから家猫への進化では、遺伝子レベルでいくつかの変化が確認されています。例えば：

- **脳の変化**: 家猫は野生の祖先に比べて脳がやや小さく、特に攻撃性に関連する領域が縮小しています。これは人間との共存に適応した結果と考えられます。

- **外見の多様性**: 毛色や模様、目の色のバリエーションが増えたのは、人間による選択育種の影響です。野生では目立たない色が有利でしたが、家猫では美しさや個性が重視されました。

- **社会性**: リビアヤマネコは基本的に単独行動ですが、家猫は人間や他の猫との限定的な社会性を発達させました。

### 現在のリビアヤマネコと家猫

興味深いことに、リビアヤマネコは今でも家猫と交配可能なほど遺伝的に近い存在です。実際に、アフリカや中東の農村では、野生のリビアヤマネコと家猫の雑種が見られることもあります。ただし、現代の家猫は、長年の品種改良により、リビアヤマネコとは見た目や性格で大きく異なるものも多いですね。

猫の祖先であるリビアヤマネコは、人間との出会いを通じて独自の進化を遂げ、現在の愛らしいペットへと変貌したのですね。